税務調査 tax-audit

税務調査
2022.02.17

税務調査で質問応答記録書に署名を求められたら?

税務調査で質問応答記録書に署名を求められたら?

はじめに

コロナ禍において税務調査の件数は減っているといわれます。国税庁の発表によると、令和2事務年度では前事務年度比で、法人税で約66%、個人所得税で約60%、相続税で約52%、件数がそれぞれ減少したそうです(注1)。しかしこの傾向は一過性で、コロナ禍が終息すれば件数自体は以前の水準に回復すると見るべきでしょう。

一方で、あと2年を切ったのインボイス制度の開始と時期を前後して、電子取引情報の電子保存の宥恕措置の終了や、帳簿の不備・不保存への加算税の加重、帳簿保存のない簿外経費の損金・必要経費不算入など、税務調査に絡む重要な制度改正が続きます。したがって私などは、インボイス制度開始後の税務調査対応には一段と緊張感が増すだろうと身構えているのですが、今回は、その税務調査の場面でしばしば問題になる、そして今後の税務調査で重要性が増すであろう『質問応答記録書』について解説したいと思います。

この質問応答記録書への対応を誤ると納税者が意図しない不利な状況に置かれかねません。是非ご一読ください。

質問応答記録書とは?

質問応答記録書は、税務調査の場面で税務調査の担当者が作成する行政文書の一種で、その作成の目的は、調査担当者が納税者に質問し、回答を得た事項のうち、課税要件の充足性を確認するうえで重要と認めた事項について、正確性を期するために質問応答形式等で記録するところにあります(注2)。いうなれば、物的証拠の残らない口頭での問答について敢えて証拠化するために作成されるものです。

私の経験上も、実務書で語られるところでも、多くの場合、質問応答記録書が作成されるのは、重加算税の課税要件の充足性が問題になる場面です。これはおそらく、調査担当者にとってその立証のハードルが高いことに起因していると思われます。

すなわち、重加算税とは、納税者が事実を隠蔽又は仮装という不正行為を伴って過少申告等をしていた場合に課されるペナルティですが、これを課すためには、調査担当者は納税者が「事実を隠蔽していた」「事実を仮装していた」ことを立証しなければなりません。その立証を行うために最も容易なのは納税者本人が隠蔽・仮装の事実を認めることなのでしょうが、税務調査中に口頭で認めたとしても、後日前言を翻されないとも限りません。そこで、納税者が隠蔽・仮装の事実を自ら認める内容の書面を作って納税者本人に署名捺印をさせ、証拠として残すため、調査担当者は質問応答記録書の作成を選択することになるのだと思われます。

要するに、ごく平たくいえば、質問応答記録書への署名・捺印が求められるのは調査担当者が重加算税を課する根拠にするためだ、と想定するのが無難です。重加算税が課されるか課されないかで加算税の税率は約20%も違います。そう考えると「署名・捺印をするのは怖い」と思われないでしょうか。

質問応答記録書には署名してもいい。但し…

このような事情で、質問応答記録書への署名捺印は須らく拒否すべきだ、という主張を展開する実務家も存在するようです。実は、質問応答記録書への署名捺印を拒否したとしてもそのこと自体が違法なわけではありません。

というのも、この質問応答記録書は法定外の行政文書なのであり、法的根拠があって作成されている文書ではないため、納税者が作成に協力しなければならないわけではないのです(注3)。したがって、署名押印を拒否することは可能です。

では、質問応答記録書に署名捺印してもいいのかどうか。私は、事実関係が正確に記載されているのであれば署名捺印していい、という立場です。記載内容に何ら誤りがない質問応答記録書の文案が示されたなら、署名捺印を拒否したところでいたずらに税務調査が長引くだけかもしれません。問題は、示された質問応答記録書の文案に事実関係が正確に記載されているかどうか。これに尽きます。

質問応答記録書は重加算税が問題になる場面で作成されることが多い、と述べました。重加算税が問題になることというのは、すなわち、納税者が何かを隠したり(隠蔽)、ある事実を何か別のものに装ったり(仮装)したかどうかが問題になることです。

存在すべき書類が存在しない、そのために過去の申告税額が過少になってしまっていた場面を想定しましょう。納税者からすれば、その書類は不幸にして無くしてしまったのであり、実際、調査担当者に対しても「書類を紛失してしまった」と説明した。それにもかかわらず、後日示された質問応答記録書の文案に「書類を破棄した」と書かれていたとしたら。そういった「言葉のあや」に注意を払い、もし事実と異なることが書かれていたとしたら堂々と修正を求めましょう。そうして双方が納得できる事実関係が記載された質問応答記録書にしたうえで、粛々と署名捺印に応じればよいのです。

むすびにかえて~税務調査には「主張できる税理士」を立ち会わせる

問題は、そのような「言葉のあや」に注意を払うためには相応の専門性が必要だ、ということです。多くの場合、納税者自身がするのは難しいでしょうし、率直に言って、そのような注意を払って必要があれば調査担当者に堂々と修正を求められる税理士ばかりかというと、そうではないのが現状ではないかと思います。

私は、税務調査に納税者の方だけで対応されることはお勧めしていません。また、税務調査には、言うべきことをきちんと言える「主張できる税理士」を選んで立ち会わせることを強くお勧めします。

税理士法人峯岸秀幸会計事務所では、普段顧問契約をいただいていない方の税務調査の立会を積極的に承っております。是非ご用命ください。

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)

(注1)国税庁「令和2事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和3年11月)国税庁「令和2事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和3年11月)国税庁「令和2事務年度における相続税の調査等の状況」(令和3年12月)を参照。
(注2)鴻秀明『新版 税務調査における質問応答記録書の実務対応』(清文社、2021年)50頁参照。
(注3)青木丈『税理士のための税務調査手続ルールブック』(日本法令、2021年)103頁参照。

   ***本記事のタイトルで使用している写真はAya Hirakawaさんの作品です。