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2022.12.16

【速報】令和5年度税制改正大綱の内容

【速報】令和5年度税制改正大綱の内容

はじめに

本日、自由民主党・公明党から令和5年度税制改正大綱が公表されました。いわゆる防衛増税を巡る議論の高まりにより公表が遅れる経過をたどったこの大綱、近年にない改正内容の豊富さとなっています。今回は、中でも注目される改正項目を抜粋して、その概要を速報します。

法人税

法人税の分野では、研究開発税制が見直されるほか、企業による先導的人材投資への税制優遇措置が創設されます。具体的には、学校法人等の設立を目的とする一定の寄附金が指定寄附金とされるほか、研究開発税制における特別試験研究費の額に係る税額控除制度について、新規高度研究業務従事者(博士の学位を授与された者で、その授与された日から5年を経過していないもの等)に対して人件費を支出して行う試験研究であること等の要件を満たすものの税額控除率が20%とされることになります。

また、近年の国際合意を受け、グローバル・ミニマム課税に対応する法制化が今回の税制改正以降順次図られます。

個人所得税

個人所得税の分野では、NISAの恒久化及び金額の拡充(生涯非課税枠1,800万円等)、スタートアップへの再投資に係る非課税措置の創設、極めて高い所得に対する負担の適正化が図られます。このうち、スタートアップへの再投資に係る非課税措置は、スタートアップを設立したり、スタートアップに投資するために株式を取得した際のその取得に要した金額を、一般株式等・上場株式等に係る譲渡所得の金額から控除することを認めるもので、スタートアップへの投資が活気づくことが期待されます。

相続税・贈与税

相続税・贈与税の分野では、かねてから話題になっていた資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築が図られます。但し、以前から言われていた相続税と贈与税を一体化するものではなく、贈与の暦年課税と相続時精算課税の選択制は今後も維持されます。

そのうえで、相続時精算課税を選択する場合、特定贈与者からの贈与については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとするとともに、相続時精算課税で取得した土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合に、相続時に価格を再計算する取扱いが新たに設けられます。

そして、暦年課税における相続開始前贈与の相続税の課税価格への加算期間が、現行の3年間から7年間に延長されます。すなわち、相続開始前の7年間にした暦年贈与については、相続税の課税ベースに含まれることになります。但し、この延長された4年間の間に贈与で取得した財産については、総額100万円までは相続財産に加算されないこととされます。

これらの改正の気になる適用時期ですが、令和6年1月1日以降に贈与により取得する財産(災害を受けた場合に係る改正については令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合)に係る相続税・贈与税から適用されるとのことですので、来年1年間にされる贈与は従来通りに取り扱われることになります。

なお、廃止が取り沙汰されていた教育資金贈与・結婚子育て資金贈与の非課税措置は、一定の見直しの上で存続となりました。

納税環境整備

インボイス制度について、以下の改正が行われます。

・来年10月1日の制度開始から3年間、免税事業者が適格請求書発行事業者になったこと等により事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる場合、納付税額を課税標準額に対する消費税額の2割にすることができることとなります。これは、小規模事業者がインボイス制度の開始を契機に課税事業者成りして消費税を納めることになる負担感を軽減することを狙った改正と考えられます。

・基準期間の課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、制度開始から6年間の間に行う国内の課税仕入れについて、課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満である場合には、帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められることになり、適格請求書の保存が不要となります。これは、小規模事業者における適格請求書の保存に係る事務負担を軽減することを狙った改正と思われますが、この取扱いが適用されるかどうかの判断要素が多く、実務的にどこまで納税者の事務負担の軽減に資するかには疑問が残るように思います。むしろ、この取扱いがあることで、税務調査の場面において税務職員の効率的な調査には資するのではないかと思われるところです。

・売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務が免除されることになります。これは、かねてより問題視されていた、現行法の下では請求した金額から振込手数料相当額が勝手に控除されて支払いがされてしまった場合にその支払いを受けた側が適格返還請求書を交付しなければならなかったという問題に対応する改正と考えられます。

・適格請求書発行事業者の登録手続が見直されます。そして、大綱では、それらの改正の趣旨等を踏まえ、現在は制度開始時から適格請求書発行事業者の登録を受けたい場合の申請期限が令和5年3月31日とされている点について、実質的に見て4月以降の申請を可能にする弾力的運用がなされることが窺われる記載がなされている点にも注目されます。

また、電子帳簿保存法についても、スキャナ保存制度における解像度等の情報の保存要件の廃止など実務に配慮したいくつかの改正が行われることになります。なかんづく、注目の電子取引の取引情報の電磁的記録の保存制度について、その要件が以下のとおり改正されることになります。

・①判定期間の売上高が5,000万円以下である保存義務者、②その電磁的記録の出力書面(整然明瞭に出力され日付・取引先ごとに整理されたものに限る。)の提示又は提出に応じることができるようにしている保存義務者が、税務職員による電磁的記録のデータダウンロード要請に応じることができるようにしている場合には、検索要件の全てが不要とされます。

・電磁的記録の保存を行う者等に関する情報の確認要件が廃止されます。

一方、昨年末に急遽設けられて大きな話題となった電子取引の取引情報の電磁的記録の保存制度の宥恕措置は延長されることなく来年末をもって終了することが明確にされました。これに対応して、所轄税務署長が電子取引の取引情報の電磁的記録を要件に従って保存できなかったことについて相当の理由があると認め、かつ、保存義務者が税務職員による電磁的記録及びその出力書面(整然明瞭に出力されたものに限る。)の提示又は提出に応じることができるようにしている場合、電磁的記録の保存をすることができることとする取扱いが定められます。

このほか、納税環境整備の関係では、無申告加算税について、現行15%~20%であるものが、納税額300万円超部分について30%に引き上げる改正等がされます。

おわりに

今回の大綱では、上記以外にも多くの税制改正がなされることが明らかにされていますので、その詳細については続報したいと思います。

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)