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2021.11.04

衆院選後の税制改正はどうなる?~賃上げ税制の強化、そのほかは?

衆院選後の税制改正はどうなる?~賃上げ税制の強化、そのほかは?

はじめに

去る令和10月31日、衆議院議員選挙が行われ、与党が過半数を確保しました。当日選挙特番を観ていたら自民党税調の宮沢会長が出演しておられ、「賃上げ税制を強化する」ということを話されていて、おや、と思いました。一夜明けた11月1日、岸田首相も記者会見で賃上げ税制の抜本的強化に触れており(注1)、どうも今年の税制改正の1つの大きなテーマになるようです。

さて今回は、今年の税制改正項目となりそうな賃上げ税制についてごく簡単におさらいするとともに、これ以外にどのような改正項目が有り得そうか、現時点での雑感を書いてみたいと思います。

賃上げ税制とは何か?

賃上げ税制とは、平易にいえば「従業員に対して前年度より多く支払った給与の一部について法人税(所得税)を減らしてあげるよ」という制度です(注2)。給与を増加させた分の一部を税金の軽減という形で国が肩代わりするということです。制度の要件が非常にこまごまとしているため詳述を避けますが、大企業と中小企業では制度が分かれており、大企業においては新規採用者に対する給与により焦点化された制度に変わったばかりです。

この制度、我々税務専門家の間では以前からあまり評判がよくありませんでした。というのも、我が国の優遇税制にはありがちですが要件がかなり複雑で、適用の可否の判断や実際の適用額の計算に非常な手間がかかったためです。果たして制度を使ってほしいのかほしくないのか、国の真意を疑いたくなるぐらいでした。そういう疑問の声が国に届いていたのか、近年何度も改正を繰り返し、要件が徐々に緩和されてきたという経緯があります。

しかし個人的には、使い勝手が改善しているとはいえ、この税制が賃金上昇にどの程度寄与するものか、懐疑的ではありました。

賃上げ税制の強化で賃金が上がる?

懐疑的だった理由は主に3つで、第1に、この制度は「本来納めるべき法人税(所得税)の一部をまける」ものですから、そもそも納めるべき税金が少ない、例えば内部留保が厚くても一時的に業績が悪い事業者や事業投資が先行していて利益が少ない事業者にとっては、そもそもこの制度は使えないものであったこと。第2に、税金が軽減されるとはいえごく小幅であること(例えば中小企業では給料増加額の15%で、かつ本来納めるべき税金の20%が限度)。第3に、一度上げた賃金をまた下げることは名実ともに難しいということを経営者はよく理解しているということです。

以上のような理由から、私は、単年度の税金の一部軽減が賃上げの動機づけにはならないのではないかと考えていました。これらの制度利用を阻害する要因は、実は法人税や所得税が、単年の利益を課税標準として課される税であるという本質と密接に関わっているように思われます。企業にとって賃金政策は中長期的視野で決定されるものですから、単年度の利益の多寡は本質的な決定要因とならないはずです。なのに本税制ではあくまで単年の利益状況に応じて利用の可否や利用可能額が決定されてしまいます。現業の業績だけではない複合的な要因で出るかどうかが決まる利益だけを基準に少ない恩典を与えるだけでは中長期的なコスト増に繋がる賃上げの意思決定に寄与するまい、と私は思います。

したがって、従来の延長線上で、相変わらず単年の利益のみを基準として計算される税の軽減額だけを増やすといった改正が行われるだけでは、それが経営者の皆さんの賃上げ決断を後押しする材料になるか疑問です。

岸田首相は「抜本的」な改正であると仰っていますので、内部留保の状況を加味する要件設定やある年の賃上げがその後複数年での税額控除に繋がる制度設計がされる、といった改正がなされると本制度の活用が一気に広がる気がします。果たしてそのような「抜本的」改正になりますかどうか、期待したいところです。

今年のその他の税制改正項目は?~大規模改正はないか

賃上げ税制以外にどのような税制改正が見込まれるかと考えますと、どうも大規模な改正はなく、従来制度の延長やマイナーチェンジに留まるのではないかというのが今のところの感想です。というのも、実は、政府税調での議論内容は議事録や会議資料の開示という形で私のような一般国民でも窺い知ることができるのですが(注3)、どうも今年の議論は事業者の記帳水準の向上といった納税環境の整備についてのみしか行われていないようなのです。

昨年は税制改正大綱に相続税・贈与税の一体化方針などが示されて議論を呼びましたが、そういった大改正は来年以降に持ち越しになるのではないでしょうか。そうすると、例えば相続税・贈与税の一体化などの大改正は法改正がされてから更に数年後の施行となるでしょうから、その実施時期は来年再来年の話ではなくなった、と想定しておいてもいいのではないかと思われます。

いずれにしても例年どおりであれば12月第2週から第3週に公表されると思われる税制改正大綱、楽しみに待ちたいと思います。

税理士法人峯岸パートナーズ新宿オフィスでは、税制改正に関するセミナーのご依頼などをお受けしております。是非お気軽にご相談ください。

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)

(注1)産経新聞ウェブサイト「首相肝いり「賃上げ税制」 衆院選受け強化へ」(2021年11月1日)参照。
(注2)制度の詳細は中小企業庁ウェブサイト経済産業省ウェブサイトをご参照ください(いずれも2021年11月4日最終確認)。
(注3)内閣府・税制調査会ウェブサイト参照(2021年11月4日最終確認)。

 ***本記事のタイトルで使用している写真はAya Hirakawaさんの作品です。