個人の税務 personal-tax

個人の税務
2022.03.03

寄付の税務のおさらい~ウクライナ問題を題材にして

寄付の税務のおさらい~ウクライナ問題を題材にして

はじめに

世界的な関心事となっているウクライナ問題に関連して、在日ウクライナ大使館が公式ウェブサイトやTwitterで寄付を呼び掛けたり、資産家が巨額の寄付を表明したりと、個人がする寄付が脚光を浴びています。ところで周知のとおり、個人で寄付をした場合には所得税の軽減を受けることができます。今回は、ウクライナ問題にひきつけて、個人がする寄付の課税関係をおさらいしてみたいと思います。

なお、文中において本問題に関連して税務上のメリットを享受し得ると考えられる寄付先をご紹介していますが、この情報は本記事執筆日現在のものである点や、弊社及び私個人が寄付を勧誘・推奨するものではなく、あくまで読者の皆様のご参考のためという観点で提供申し上げているに過ぎない点、本記事はご紹介する各団体の信頼性やその資金使途を保証するものではない点を予めご了承ください。寄付をなさる場合には、あくまでご自身の責任において行っていただきますようお願い申し上げます。

個人がした寄付の税務上の取扱いは2種類

個人が寄付をした場合、「寄付先に関する要件」と、「確定申告時の添付書類の要件」を共に満たすことができれば、所得税が軽減されます。また、その軽減のされ方には所得控除と税額控除の2種類があります。所得税の税額は大雑把にいって「所得×税率=税額」という式で計算されますが、所得控除はここでいう所得を減らすことができるもの、税額控除は税額を減らすことができるもの、とご理解ください。

さて、所得控除の方が寄付先が幅広く認められている反面、税額控除の方が税金減少効果が大きいことが多いということをまず頭に入れていただいたうえで(所得が大きくなるに従って所得控除と税額控除のいずれの税金減少効果が大きいかについて慎重な検討が必要になります。)、まず、個人がした寄付に係る2種類の制度について簡単に見ておきましょう。

所得控除である寄附金控除

まず、所得控除の制度として、寄附金控除があります。これは、納税者が国や地方公共団体、一定の法人・団体に対して寄付した場合に、その年にした寄付の合計額(但しその年の総所得金額等の40%相当額が上限)から2,000円を差し引いた金額を、所得から差し引くことができる制度です。

対象になる寄付先は、国(日本国のこと)や地方公共団体のほか、国が指定するなどした一定の国立大学法人、学校法人、日本赤十字社、独立行政法人、公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人、政治団体、NPО法人などです(注1)。あくまで国が指定するなどした先に対する寄付だけが対象となる点にご注意ください。また、このうち、一定の公益社団法人、公益財団法人、政治団体やNPО法人等への寄付については、次の税額控除の制度との有利選択が認められる場合があります。

対象となる寄付をした場合、寄付をした年についての所得税の確定申告をする際に所定の明細書と寄付先から交付を受けた領収書等を添付すれば、寄附金控除の適用を受けることができます。

なお、いわゆる「ふるさと納税」として地方公共団体にする寄付は、この寄附金控除の対象になります。

税額控除である認定NPO等に対して寄附をした場合の特別控除

次に、税額控除の制度として、「政治活動に関する寄附をした場合の特別控除」「認定NPO法人等に対して寄附をした場合の特別控除」があります。これは、納税者が一定の政治団体、認定NPO法人や公益社団法人等に対して寄付した場合に、その年にした寄付の合計額(但しその年の総所得金額等の40%相当額が上限)から2,000円を差し引いた金額に30%又は40%を乗じた金額(但しその年分の所得税額の25%相当額が上限)を、所得税額から差し引くことができる制度です。

対象になる寄付先は、一定の政治団体、NPО法人、公益社団法人、公益財団法人等です(注2)。本制度についても、一定の要件を満たしている先に対しての寄付だけが対象です。

対象となる寄付をした場合、寄付をした年についての所得税の確定申告をする際に所定の明細書と寄付先から交付を受けた領収書等を添付すれば、特別控除の適用を受けることができます。

以上のとおり、寄附金控除にしろ、認定NPO法人等寄附の特別控除等にしろ、寄付する先が一定の条件を満たした先である必要がある点、また、制度適用にあたってその先が発行した領収書等の添付が必要になる点は共通です。税金減少効果を期待して寄付先を選ぶ際には、『所得控除や税額控除の適用を受けることができる旨』・『所定の領収書等を交付する旨』をウェブサイトに公表している先かどうか、確認されることをお勧めします。

外国政府に直接した寄付の取扱いは?

さて、本記事執筆日現在において、在日ウクライナ大使館が銀行預金口座の情報を公表し、寄付を募っていることが知られています。この口座にお金を振り込んでする寄付に上に述べた2つの制度が適用可能かといいますと、残念ながらそうではないと考えられます。ウクライナ政府への寄付は寄附金控除の適用がある(日本国所得税法における)国に対する寄付に当たらないためです。

ウクライナ問題に関連した控除可能な寄付先の例

しかし、税金減少のメリットも享受したうえでウクライナ問題に関連して何らかの寄付をされたい方には、先の2つの制度の対象となる先への寄付という方法があります。本記事執筆日現在、例えば以下のような法人がウクライナ問題に関する寄付を受け付けています。各法人のウェブサイトによれば、いずれも税務メリットの享受が可能であるとのことですので、ここにご紹介します(いずれも2022年3月2日最終確認)。

日本赤十字社

特定非営利活動法人 国連UNHCR協会

公益財団法人 日本ユニセフ協会

特定非営利活動法人 ADRA JAPAN

特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン

特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR Japan)

公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

弊社及び執筆者は、上記団体やその寄付の資金使途等の信頼性を保証するものではありません。寄付はご自身の責任においてなさってください。

法人がした寄付にも法人税の減少効果はある

法人から寄付をした場合も、一定の条件のもとでその寄附金の額が損金の額に算入され、法人税を軽減する効果があります。経営者の方にはご検討いただく価値があるかもしれません。

おわりに~寄付も節税の一種

税金は国という枠の中で国民サービスを維持していくために国民各自が負担する拠出金のようなものですが、他の誰かのために出すお金、という点において、税金と寄付は似ているところがあります。国や地方公共団体に納税することに疑問を拭えない、けれども現に困窮する人々のために使われるお金なら出してもいい、という方には、寄付を有力な節税の一種とお考えいただくこともアリなのではないでしょうか。

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)

(注1)寄付先についてのもう少し詳細な説明については、国税庁ウェブサイト「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」(2022年3月2日最終確認)をご確認ください。

(注2)寄付先についてのもう少し詳細な説明については、国税庁ウェブサイト「No.1260 政党等寄附金特別控除制度」「No.1263 認定NPO法人に寄附をしたとき」「No.1266 公益社団法人等に寄附をしたとき」(いずれも2022年3月2日最終確認)をご確認ください。

  ***本記事のタイトルで使用している写真はAya Hirakawaさんの作品です。