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2021.09.02

詐欺で被った損害を貸倒損失として論じる税理士の誤謬

詐欺で被った損害を貸倒損失として論じる税理士の誤謬

はじめに~ある税理士が言ったらしいこと

先日、ある方からこんなお話を伺いました。曰く、その方が経理としてお勤めの会社が1年ほど前に投資話に乗って数千万円を預け金名目で拠出した。年利にして数パーセント程度の収入が毎月入金されるはずだったが、数か月前から滞っている。投資先に理由の説明を求めるとその投資先の取引先からの入金が滞っているためとのこと。不安に思ってウェブ上で調べると、投資先とその取引先がしているビジネスは詐欺ではないかという評判が立っているのを見つけ、増々不安になり、もし預け金が返ってこなかった場合に損金算入できるか顧問税理士に尋ねた。

その顧問税理士のアドバイスが腑に落ちないということでした。その内容はこうです。それは詐欺に決まっている。詐欺で預け金が返ってこないのならその損金算入の可否は法人税基本通達9-6-2(回収不能の金銭債権の貸倒れ)に基づいて判断することになる。損金算入するための証拠として、警察に詐欺の被害届を出す、相手先事務所に行って営業しているかどうかを確かめて写真を撮ってくる、といった対応が必要である。

本当に被害届なんか出さないといけないのですか?ということでした。

このお話を伺った時、私は、恐らくその顧問税理士には不法行為により発生した損失の損金算入について理解が欠けており、その結果、このアドバイスには多分に誤りが含まれてしまっているのだろうと思いました。今回は、アドバイスのどこに間違いがあるのかを指摘しながら、詐欺等の不法行為で会社が損害を被った場合の法人税法上の取扱いについて私見を整理しておきたいと思います。

間違いその1―税法以前の法律関係の軽視

まず最初に、この顧問税理士には、私法上の法律関係を前提として税法が適用されるということへの根本的な理解が欠如しているのだと思います。本件の場合、課税関係の判断に当たってはこの会社は投資先から詐欺にあったと法的に評価できるのかがとても重要です。そして、法的に詐欺に当たるといえるのかどうかについて我々税理士には判断がつきませんから、このようなお話を伺ったときにまず我々税理士がすべきアドバイスは、弁護士の意見を聴取してください(あるいは聴取します)、ということに尽きます。それをせずに「詐欺」と決めつけたこの顧問税理士は、おそらく課税関係を考えるにあたってその前提であるべき私法上の法律関係を日頃から軽視しているに違いありません。その傾向は「警察に被害届を出すべき」という発言からも窺えます。民法上の詐欺(不法行為)と刑法上の詐欺罪の区別に思いが至る税理士ならこのような発言をしないはずだからです。

詳細は割愛しますが、国家による刑罰が下される分だけ刑法上の詐欺罪の構成要件は厳格なので、民法上の詐欺(不法行為)の全てが刑法上の詐欺罪に当たるわけではありません。本件での課税関係の検討に当たって重要なのはこの会社が民法上の不法行為によって損害を被ったかどうかであるにも関わらず、そのことの立証に刑法上の詐欺罪への該当性を窺わせる事実となる警察への被害届の提出を要するとは、いささかピントのずれたアドバイスと考えざるを得ません。

間違いその2―詐欺等による損害とそれに対する損害賠償請求権は両建てだ

さて仮に、今後やはり預け金が返ってこず、この会社が弁護士と相談して物事を進めていった結果、投資先がしたのは詐欺であった(不法行為があった)という理由で損害賠償請求を行うという結論に至ったとしましょう。その際の課税関係をどのように考えるべきでしょうか?

この点について、結論としては、不法行為により被った損害に係る損失の損金算入と損害賠償請求権の発生・確定に係る収益の益金算入とを両建てして考えることになっています。本論点について有名な日本美装事件の控訴審判決(東京高判平成21年2月18日税資259号順号11144)は以下のように述べています(注)。

「…不法行為により発生した損失は…その額を損失が発生した年度の損金に計上すべきものと解されている…不法行為による損害賠償請求権については、通常、損失が発生した時には損害賠償請求権も発生、確定しているから、これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則であると考えられる…。」

敢えて会計仕訳で表現するならば、以下のような2本の仕訳を切ることになるとイメージしていただけば分かりやすいでしょうか。

(借)詐欺による損失 (貸)預け金
(借)損害賠償請求権 (貸)賠償金収益

そして実務上往々にして論点になるのが、その損金算入時期と益金算入時期です。両者は原則として同時である(したがって純額の所得インパクトはゼロである)というのが先に引用した判決文の主旨です。しかし、本件のように会社外部の第三者から詐欺にあった場合、相手方との間で損害賠償責任の有無自体が争いになったり、損害賠償請求をしたとしてもそれを払ってもらえるのか怪しいのが実際のところです。そのような実態を踏まえて、以下のように定める法人税基本通達2-1-43(損害賠償金等の帰属の時期)が存在します。

「他の者から支払を受ける損害賠償金…の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。」

ここでの「他の者」とは会社の役員や従業員以外を指していると解されています。今回のような場合、損失と収益を同時両建するのではなく、賠償金収益の益金算入時期を遅らせて、支払いを受けることが具体的に確定した日の属する事業年度か、実際に支払いを受けた日の属する事業年度にしてよい、ということです。

したがって実務上、本件のような場合には、詐欺による損失の損金算入を先行させ、賠償金収益の益金算入は上記通達の適用によって投資先からの賠償金の実際の入金まで遅らせることを検討すべきことになると考えられます。

詐欺で損害を被ることになるかもしれないと聞けば税理士としては以上のような課税関係が考えられることを説明すべきだと考えますが、この顧問税理士はいきなり貸倒損失の話をしてしまっています。それはおそらく以上のような課税関係を知らなかったことに起因するのでしょうからそのアドバイスには誤りが含まれていたと思いますが、しかし本件でも貸倒損失が一切問題にならないかというとそうとは言い切れません。そのことについても念のため述べておきましょう。

間違いその3―今回は貸倒損失の課税要件が問題になる場面なのか?

以上に述べたとおり、不法行為により被った損害に係る損失はその損失が具体的に発生したといえる限りは損金算入が可能であり、貸倒損失について行政通達に具体的に規定されている要件を満たしている必要はありません。しかし一応、本件のような場合に貸倒損失が議論されることになる場面は2つ想定できます。

第1に、賠償金収益を敢えて損失と同時に計上した場合です。このような場合で後に賠償が実際に履行されない場合には、先に計上した損害賠償請求権の貸倒損失を損金算入することが可能かどうかという議論が生じ得ます。もっとも、本件の場合には前出の通達の適用により賠償金収益の益金算入時期を実際の収入がある時期まで遅らせることを検討できるのですから、あえて貸倒損失の議論を持ち出す実益がないと言わざるを得ません。

第2に、仮に弁護士の意見を聴取した結果、本件で会社は詐欺にあったとはいえないという結論になった場合です。この場合、契約に基づいて預け金の返還を求めてもなかなか返ってこないとなれば、法人税基本通達9-6-2(回収不能の金銭債権の貸倒れ)の適用により貸倒損失として損金算入できないかを検討することになる可能性が考えられます。同通達には金銭債権について「債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合」に損金算入が可能であると定められており、実務上、この要件に当てはまることの立証が可能かを検討することになります。その過程で、この顧問税理士の言う「相手先事務所に行って営業しているかどうかを確かめて写真を撮ってくる」というようなことも考えられなくはありません。しかしながら、当の顧問税理士本人が「詐欺だ」と言っているわけですし、同通達の適用を考えるに際して「警察に被害届を出す」ことが直接意味を持つとは考えづらいことからすれば、やはりここまでを想定したアドバイスであった可能性は低いでしょう。

そうするとこの顧問税理士は、悲しいかな、自分のクライアントに詐欺による実損害が顕現した後もその損害の損金算入を遅々として行わず、結果として余計な税金を支払わせる羽目に陥るのかもしれないと思わずにはいられません。

おわりに~税理士が法律を学ぶ大切さ・法律を学ばない税理士の危うさ

実は、本件のように「会社が詐欺にあった際の課税関係を考えろ」と言われて筋道立てて考えられる税理士の方が圧倒的に少ないのが現実であるように思われます。何を隠そう私自身、かつて大学院で税法学に出会わなければ未だにこの顧問税理士と似たような論理的でないアドバイスをしてしまっていたかもしれません。

課税関係を考える前提には必ず民法等の私法上の法律関係があります。そのことを理解しない税理士が税務アドバイスをするとすれば、それは「思いて学ばざれば則ち殆し」です。税理士法人峯岸パートナーズ新宿オフィスでは、税法学に根ざしたアドバイスやセカンドオピニオンの提供を行っております。もし皆さんの周りに税理士が言っていることに納得がいかないという方がおられれば、是非一度ご相談ください。

(以上の私見は本記事公開日現在の法令に基づいています。)

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)

(注)なお、最決平成21年7月10日税資259号順号11243は上告棄却・不受理としました。