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2021.09.16

電子取引による請求書等の書面保存が認められなくなることと実務対応

電子取引による請求書等の書面保存が認められなくなることと実務対応

はじめに

電子メールやクラウドサービスを通じた請求書や納品書などのやり取りは既に実務に深く浸透して久しいですが、令和3年度の電子帳簿保存法改正により、令和4年1月1日以降、いわゆる電子取引により受領した請求書等の書面保存が認められないことになりました。そのことについての実務的な取扱いについて今年7月に国税庁が公表した「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(以下。単に「一問一答」といいます。)で具体例が示され、どうやら実務的な落としどころとしての書面保存の途も閉ざされそうであることが明らかとなってきました。

今回は、このことに関連して経理実務上論点となり得るところを述べたいと思います。

電子取引とは(一問一答問2参照)

「電子取引」とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいいます。そして、ここでいう「取引情報」とは、取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいいます。

具体的には、電子メール(添付ファイルを含む。)で請求書等を授受する取引、インターネットサイトいから請求書等をダウンロードするような取引、いわゆるEDI取引などがこれに当たります。

電子取引で入手した証憑をどう保存すればよいか

電子取引で入手した請求書等の証憑については、そのオリジナルのデータであるところの電磁的記録の保存が必要になります。例えば、電子メール本文に取引情報が記載されてる場合にはその電子メール本文を、電子メールの添付ファイルとして請求書等を授受している場合にはその添付ファイルを、電磁的記録として保存しなければなりません。それらをプリントアウトして紙で保存することが認められなくなるのがポイントです。

その保存は、以下の要件を満たした形で行うことが求められます。

1 見読可能装置の備付け等(ディスプレイやプリンタ等の備付け)

2 検索機能の確保(①~③の全て)
 ①取引年月日等、取引金額、取引先を条件に検索できる
 ②日付又は金額の記録項目の範囲を指定して検索できる
 ③2以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できる
 ※②・③は、税務調査の際にデータダウンロードに応じる場合は不要。

3 改ざん防止措置の実施(①~④のいずれか)
 ①タイムスタンプの付したものの授受
 ②受領後に速やかにタイムスタンプを付す
 ③データの訂正削除が不能か、又はその履歴が残るシステムを利用した保存
 ④訂正削除の防止に関する事務処理規程の整備運用

実務上厄介なのは、ある取引先からは電子メールで、ある取引先からはウェブサイト上から提供されるというようにバラバラに収集されることになる電子取引情報を、2・3の要件を満たした形でどう網羅的に整然と保存するのかということでしょう。

実務的な落としどころは?

最もわかりやすい解決策は、会計システムを前記2の①~③及び3の③の要件を満たすものに切り替えることであると思われます。例えば、クラウド会計ソフト「会計freee」は、これを利用することで各要件を満たすことが可能であると広報しています(注1)。

とはいえ、多くの従業員や取引先を抱える会社にとっては会計システムの入れ替えは相当な難事です。そこで当座の有力な解決策となるのは、前記3④の規程を整備運用したうえで、前記2の少なくとも①の要件を満たす形で請求書等の電磁的記録を整理保存する方法であると思われます。

具体的には、一問一答問12で以下のような方法が紹介されています。

1 請求書データ(PDF)のファイル名を『受領年月日_取引先_請求額』のような規則性をもった名称に変える。
2 これを『取引先名』や『取引年月』などの任意のフォルダに保存する。
3 国税庁が例示するような規程(例「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」)を整備し、運用する(注2)。
4 税務調査の際に要請があった場合にはデータダウンロードに応じる。

あるいは、電磁的記録の前記2の①~③の要件を全て満たす検索簿を整備することで、税務調査の際にデータダウンロードに応じないとしても検索要件を満たすことなる旨が一問一答には示されています。

もっとも、相当規模以上の会社で、以上のような解決策を取ることではなく、むしろ取引先に全取引情報の紙面提供を要請するという解決策を志向している例もあると仄聞しています。行政側のデジタル化志向が、その厳密な規制ぶりが仇となって逆に民間側をアナログ化に追いやってしまうとしたら皮肉な結果であると言わざるを得ません。

電子データによる保存義務を遵守しないとどうなる?

令和4年1月1日以降、電子取引について以上のような電磁的記録の保存義務を満たさない場合、どのような危険があるのでしょうか。この点、一問一答は青色申告の承認の取消対象であると述べています(問42参照)。但し、実際に取り消されるかどうかは、違反の程度等を総合勘案し、真に青色申告者にふさわしくないと認められるかどうかを検討する旨も同時に述べられています。

また、保存義務を満たさない場合、そのことが所得税計算上の必要経費や法人税計算上の損金の該当性の判断に影響を及ぼす可能性についても懸念の声があります。保存義務を満たさないことが必要経費・損金算入の否認に直結するのではないかということです。この点、一問一答では、申告内容の適正性は税務調査において納税者からの追加的な説明や資料提出、取引先の情報等を総合勘案して確認することになる、と、一応は留意的に述べられています。

これまでも請求書がないからといって直ちに必要経費・損金算入が否認されるようなことは理論上も実務上もありませんでしたし、私が某省の方からお話を伺った際にも、青色申告の承認取消や損金等への該当性の判断は慎重に行うことについて国民の理解の向上に努めるといった趣旨の話がありました。そういった状況を勘案すると、当座のところは心配し過ぎなくてもよさそうであるという印象を持っています。

電子取引に係る証憑の真正性の確保という新たな問題

税制上は電子取引に関する書面保存が否定されたことで、今後、電磁的記録の真正性をどう確保するのかという問題が、主に企業の内部統制や会計監査の観点で提起されつつあります。従来もタイムスタンプを各企業が導入運用することなどにより真正性の確保は可能であったものの、それを業務プロセスに組み込むことの煩雑さや費用負担が改正前の電子帳簿保存法の適用拡大を妨げてきたという現実があり、そこが容易にならないままに制度が電子保存に大きく舵を切ったことで、改めて真正性の確保が問題になっているのです。

この点は、特に電子インボイスや電子帳簿保存とも大きく関係するため機会を改めて整理したいと思いますが、まず、電子インボイスの導入の側面では、現在、eシールの活用に向けた官民双方の検討が進んでいるようです。また、内部統制や会計監査の側面では、近いうちに日本公認会計士協会が見解を公表するという話を仄聞しています。それらについて進展があり次第、続報したいと思います。

おわりに

現在、当法人での上記の点を含めた改正電子帳簿保存法対応に関する検討も大詰めを迎えております。間もなくお客様向けのご案内を開始させていただきますので、今しばらくお時間をいただければ幸いです。

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)

(注1)freee「2020年改正電子帳簿保存法 クラウド会計ソフトや事業用クレジットカード導入で便利に」(2020年11月20日公開。2021年9月16日最終確認)参照。
(注2)国税庁ウェブサイト「参考資料(各種規程のサンプル)」(2021年9月16日最終確認)参照。

 ***本記事のタイトルで使用している写真はAya Hirakawaさんの作品です。