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2021.03.03

税制改正動向解説 贈与税がなくなり相続税に一本化される?

税制改正動向解説 贈与税がなくなり相続税に一本化される?

相続税と贈与税が一本化されるのではないか、という報道(注1)が散見されるようになりました。私が仄聞するところでも政府税制調査会において既にその議論がスタートしているとのことであり、将来実現するかもしれない話として受け止めておく必要があるでしょう。今回は、その議論が動向や現時点で予想される皆様への影響を概観しておきたいと思います。

相続税と贈与税の一本化とは?

相続税は、人の死亡を原因として承継した資産に課される税金です。一方、贈与税は、人の死亡によらずに贈与を受けた資産に課される税金です。歴史的には、最初に相続税があり、死んだ時に税金をとられるくらいなら生前に贈与してしまえ、という相続税逃れが横行したことへの対抗策として贈与税ができたという経緯があります。このため、相続税率よりも贈与税率の方が高く設定されています。

現在議論が進んでいる相続税と贈与税の一本化とは、贈与税を廃止して、生前贈与で移転した資産も相続で移転した資産と合算して一緒に課税しようという動きです。これは従来、生前の贈与による資産移転を長期間管理できないという課税上の問題があり実現が難しいといわれていたのですが、マイナンバーの導入やIT技術の進歩によって、あながち不可能ではなくなってきているのではないかとも考えられます。今回、この問題が税制改正の俎上に上ったのも、現在進展している税務行政のデジタル・トランスフォーメーション化の流れと無関係ではないかもしれません。

政府・与党の真意は?

さて、最初に述べたような報道の直接の発端は、昨年公表された与党の令和3年度税制改正大綱(注2)の次のような記載であると思われます。

「今後、(…中略…)相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。」(18頁~19頁)

ここだけを取り上げると資産を多くお持ちの方は「すわ増税か!!」と思われるかもしれませんが、そのご心配はおそらく8割ハズレ、2割正解といったところでしょう。大綱の引用箇所の前段に記載されていることを読んでみるとそのことがよくわかります。その要旨は以下の通りです。

・高齢層と若年層の間で、高齢層に資産が偏る資産偏在が起こっている。
・高齢層が有する資産が早い時期に若年層に移転すると若年層がお金を使うので経済が活性化することから、そのような資産移転を促したい。
・生前贈与に係る贈与税率の方が相続税率より高いことが資産移転を阻む要因になっている。
・諸外国では相続と生前贈与とで税負担が一定になるよう工夫されているが、そのことは租税回避の防止にもなっている。

すなわち、相続税と贈与税を一体化する主要な目的は『同じ家族の中での父母・祖父母から子・孫への早期の資産移転を促すこと』なのであって、決して資産家への課税を重くすることではありません。政府・与党の眼中には『資産家とそうでない家の資産格差の解消』はないと考えていいでしょう。

このことは、自民党税調の甘利明会長が実務誌による相続税と贈与税の一本化についてのインタビューの中で答えていることからも読み取れます。

「資産というのは活用されて初めて生きますから、活用のタイミングが税制によって制約されるのは、日本全体でみれば、もったいないわけです。ですから、いつ、資産を移転しても納税負担は変わらない方向にもっていくべきだという議論が、ひとつ原点にあります。
基本的な考え方としては、税の公平性、そして、政策目的に沿っているかという観点に加え、資産をどのように効率よく回していくかという観点を含めて、総合的に勘案していくことになりますね。」(注3)

したがって、現段階では、既に大きな資産をお持ちの家の方々には、課税が殊更に重くなるというご心配をいただく必要はないと私は考えています。

資産家への影響は?

もっとも、今回の改正の流れが資産家への更なる課税でないからといって資産家に影響がないわけではありません。相続税対策のあり方は大きく変わる可能性があります。

相続税対策には大きく2種類の手法があります。1つは、資産の評価額自体を低くする手法です。例えば預金のまま持っているよりは土地を買って建物を建てた方が資産全体の相続税評価額が下がる、というような事実に着目して、資産ポートフォリオを操作して相続税負担を下げる手法です。

もう1つは、相続税率と贈与税率の税率差を利用して相続税・贈与税をトータルで低くする手法です。これは、相続税は死亡時の全資産への課税である一方、贈与税は1年間で贈与された資産への課税であるという違いに着目した手法です。相続税より贈与税の方が税負担が重いのは一括して資産を移転した場合であり、実際には、相続時に全資産を移転するより、生前に細切れに資産を移転した方がトータルでの税負担が少なくて済みます。

相続税と贈与税の一本化は、この後者の手法を成り立たせなくなる可能性があります。現在既に着手されている後者の手法を前提とした相続税対策は変更を迫られる可能性があり、私も、特に政府・与党での今年の議論には注目して、続報させていただくつもりです。

税理士法人峯岸パートナーズ新宿オフィスでは、資産家の方の税金に関する税制改正動向を随時速報いたしますので、是非当ブログをご確認ください。また、相続税対策に関するご相談を承っております。是非お気軽にご相談ください。

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)

[脚注]

(注1)例えば、幻冬舎GOLD ONLINEの2021年1月13日の記事(2021年3月3日最終確認)などを参照。

(注2)自由民主党ウェブサイト(2021年3月3日最終確認)参照。

(注3)税務通信3643号(2021年2月22日)Q7A参照。