税・会計よもやま話 tax-accounting

税・会計よもやま話
2021.07.08

過去最高の税収、なぜか?~税理士の現場雑感

過去最高の税収、なぜか?~税理士の現場雑感

はじめに

2021年7月5日、令和2年度(2020年度)の税収が過去最高の60兆8千億円に上ることを財務省が公表したと相次いで報道されました。Bloomberg(注1)によると、

20年度の消費税は21兆円と、想定から1.7兆円上振れて過去最高となった。19年10月の消費率引き上げの影響が通年で反映された。株高や巣ごもり需要が寄与し、法人税は11.2兆円と想定より3.2兆円、前年度を0.4兆円上回った。所得税は想定を0.7兆円上回り、前年度並みの19.2兆円。

とのことです。
これをもって麻生財務相は「輸送や航空、宿泊、飲食の話だけを聞くから悪くなる」「景気としては悪い方向ではない」と発言したそうですが(注2)、一方でこの1年、苦労に苦労を重ねられた事業者の方々が多くいらっしゃったのはまぎれもない事実であり、そういう最中にあって何故過去最高税収が達成されることになったのか、雑感を述べてみたいと思います。

私はマクロ経済的なことはよく理解していませんので、以下はあくまでも、税実務に携わっている公認会計士・税理士の現場感覚として申し述べるものです。皆様が物事をお考えになるうえでのご参考や雑談のタネになれば幸いです。

消費税の増収について~増税の賜物か

まず、消費税の増収については、最も大きな影響は消費税率上昇の影響が通年で表れたことではないでしょうか。消費税率が8%から10%に引き上げられたのは2019年10月のことで、2019年度の税収には増税の効果は3か月分しか表れていませんでした。それが2020年度は12ヵ月にわたり表れることになります。税率は8%から10%へ25%増しになったわけですので、(同時に軽減税率が導入されたとはいえ)この程度の増収ではむしろ少ないとも捉えられるかもしれません。

法人税の増収について~赤字企業が増えても肌感ほど減収しない?そして助成金の存在

次に、法人税の増収について考えてみます。もちろん、前提として、コロナ禍にあっても業績を伸ばした法人は確かに存在しました。そういう法人の存在が税収増に貢献したことは当然肯定するとして、何故、私たちの肌感覚的な景況感に反して税収が伸びているのか、というところの理由になりそうなものを以下に2点、挙げてみたいと思います。

①赤字法人の法人税はゼロになってもマイナスにはならない

第1に、赤字法人のその年の法人税の納税はゼロになってもマイナス(還付)になるわけではありません(注3)。ですから、巨額の赤字を計上する法人が増えても、その赤字の増え方ほどには法人税収は減らない。それどころか、黒字の法人と赤字の法人の業績の差が広がり方次第では、増収になることも有り得ます。このことは以下のような数値例を見ていただければご理解いただけると思います。

会社が4つしかない某国を仮定します。某国におけるX1年度の各社の業績と法人税額(税率30%)は以下のとおりでした。

A社 利益200・法人税60
B社 利益100・法人税30
C社 利益30・法人税9
D社 利益△30・法人税0

各社の利益の合計:300
各社の法人税の合計:99

これがX2年度に以下の通り変化したとします。

A社 利益450・法人税135
B社 利益0・法人税0
C社 利益△50・法人税0
D社 利益△100・法人税0

各社の利益の合計:300
各社の法人税の合計:135

どうでしょうか。X1年度とX2年度では某国全体での利益の合計は変わっていないにも関わらず(注4)、法人税収が増えてしまいました。一面として、2020年度のわが国ではこれに近い現象が起きていたのではないかと想像したくなります。

②助成金が会社の赤字を補填して余りあった?

第2に、2020年中、雇用調整助成金や持続化給付金、家賃支援給付金など、一定業種の法人に対して国や地方公共団体から非常に多額の支援がありました。これらが本来赤字に転落するような法人の決算を黒字に維持させ、法人税収を維持したという側面もあったのではないかと考えられます。このことは、助成金が決算に与える影響が大きい中小企業において特に顕著であったろうと思われます。

所得税の増収について~助成金による下支えと株高

最後に、所得税の増収についてです。これについても理由が2つほど思い当たります。第1に、雇用調整助成金の存在により、休業を余儀なくされた業種に務めている方の給与も一定程度維持されたことで、給与所得に係る所得税収が下支えされたであろうことというです。第2に、空前の株高の影響で、金融商品や暗号資産への投資により多額の所得を得た人が多くいたであろうということです。特に後者の点については私のような実務家であれば誰しもが肌で感じていることでしょう。これはコロナ禍が経済格差を着実に拡大させたことを予感させる理由でもあります。

おわりに

以上のとおり、2020年度の税収が過去最高を記録した理由として思い当たるところを徒然と述べてみました。皆様はどのような感想をお持ちでしょうか。私の述べたところは邪推に過ぎず、税収増の理由が麻生財務相のいうように「景気が悪くないこと」の表れであることを願ってやみません。

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)

(注1)Bloomberg「国の20年度税収60.8兆円と過去最高、消費税は初の20兆円超え」2021年7月5日(2021年7月8日最終確認)参照。
(注2)テレ朝News「税収が過去最高 麻生大臣「景気悪い方向ではない」」2021年7月6日(2021年7月8日最終確認)参照。
(注3)厳密には欠損金の繰戻し還付制度が存在しますが、それでも1年前の法人税が取り戻せるに過ぎません。
(注4)X1年度とX2年度に損失を計上している会社は、大雑把には金融機関からの借入れを増やして損失分を賄っているから倒産しない、とお考えいただけばいいと思います。実際、コロナ禍にあっては特別な制度融資を利用することで借入金を増やしている会社が多くあります。

  ***本記事のタイトルで使用している写真はAya Hirakawaさんの作品です。