税・会計よもやま話 tax-accounting

税・会計よもやま話
2022.04.19

あえて、グレーな租税回避の意思決定について考える

あえて、グレーな租税回避の意思決定について考える

はじめに

お客様に「こういう買い物をすると税金が安くなる」なんていう話をする人がいて、お客様から「こんな話を聞いたんだけど」という話をされる税理士がいる。同業者界隈の、ごくありふれた日常です。この手の話のほとんどは、実は「税金が安くなる」のではなく「税金が先送りされる」話に過ぎないということを以前ブログに書いたのですが、中には本当に「税金が安くなる」話もあります。

そして厄介なことに、しばしば「税金が安くなるかもしれない」話に遭遇します。これは端的にいって「グレー」な話のことで、「グレー」の程度も、「いくらなんでも理論的に無理がないか?」という危い話から、立法が追い付いていない分野の判断が難しい話まで、様々です。

こういう話について相談を受けた際、税理士にとって安全なのは、「リスクがあるからやめた方がいい」と答えることです。しかし、本来「やめた方がいい」かどうかはリスクの程度に依存するはずですから、「リスクがある」から「やめた方がいい」という結論の出し方は性急と言わざるを得ません。

では、そのリスクの程度をどのように評価し、「グレー」な話を実行するか否かの判断をすべきなのでしょうか。本稿ではそのことを、(あくまで理論的に)考えてみたいと思います。

「グレー」な話と「ブラック」な話の違い

リスクについて考える前に、検討の余地がある「グレー」な話と、そうではない「ブラック」な話の違いをはっきりさせておきましょう。前者には、いわゆる租税回避が当たり得ます。租税回避とはさしあたり、法が想定しない異常・変則的な法形式を用いる税金減少手法を実行することであるとしておきます(注)。この租税回避は形式的には合法であることから納税者にしてみれば問題がないだろうと考える手法でありながら、元々法が想定していない取引であるため課税当局にとってみれば放置できない不当な税金減少手法であるということが有り得、したがってしばしば税務調査で否認され、訴訟に発展してその適法性が争われることになります。

後者はいわゆる脱税です。脱税は、ありのままの事実関係を前提にすれば払わなければならない税金を、事実関係を別の形に偽装したり秘匿したりして、免れることであるとしておきましょう。

以下で扱うのは、あくまで前者の「グレー」な話についてです。「ブラック」な話はそれ自体が違法な行為であり、採用される余地がありません。

「リスク」を計算式として見える化してみる

さて、税金を減らすためにある取引を実行するかどうかを検討することが投資案の採否を検討することに似ているとすれば、実行すべきとの結論が下される場合とは、以下のような関係が成り立つ場合です。

取引実行のベネフィット>取引実行のコスト

取引実行のベネフィットは、税金減少額として定量化し得るでしょう。ここで注意すべきは、税金減少額としては永久に減少する額のことだけを考慮するべきで、課税時期が先送りされるに過ぎない額を含めて考えてはならないということです。

一方、取引実行のコストは以下のように考えられるのではないでしょうか。

取引実行のコスト=取引費用+否認される確率×否認されたら払わなければならない税金

ここで、取引費用とは取引を実行するために要する費用のことで、例えば、税金を減らすために何かを買う必要があるということならその購入費用などがこれに当たります。

否認される確率は、更に、税務調査を受ける確率、その結果増額更正処分を受ける確率、更に、その後の不服申立・訴訟で負ける確率、に分解することができるでしょう。

否認されたら払わなければならない税金は、本税、ペナルティとしての加算税、そして利息としての延滞税の合計となります。

つまり、ある「税金が安くなるかもしれない」話を聞きつけたら、それを実行するかどうか、以下のような計算式を念頭に判断してはどうか、ということになります。

税金減少額>取引費用+(税務調査を受ける確率×更正処分を受ける確率×訴訟等で負ける確率)×(本税+加算税+延滞税)

税理士がしばしばいう「リスク」が具体的に何を指すのかといえば、上の式でいうところの「税務調査を受ける確率×更正処分を受ける確率×訴訟等で負ける確率」の部分を指すのだと考えればいいのではないでしょうか。もっとも、税務調査を受ける確率は具体的に○○%だ、などと言い切ることは現実的には不可能ですので、このリスク評価にある程度の曖昧さが付きまとってしまうのはやむを得ないところです。

おわりに~税理士の仕事と税理士を使う人の仕事

「税金が安くなるかもしれない」話の真偽や採否について相談を受けた税理士の仕事は、上の式の各構成要素について具体的に示し、経営者に判断の材料を提供することだと考えています。一方、税理士を使う立場の経営者の仕事とは、そのような税理士の助言を受けて実行の可否を判断することであり、その結果を引き受けることです。ごくまれに税理士に対して実行するかどうかの判断を丸投げする方がおられますが、あくまで判断すべきはリスクを引き受けてメリットを享受する本人であり、もし自身で判断できないと思われるのなら、そんなことはしない方がいいということでしょう。

税理士法人峯岸パートナーズ新宿オフィスでは、各種の税務相談に対して高度な知識をもってお答えしています。是非ご相談ください。

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)

(注)金子宏『租税法(第二十四版)』(弘文堂、2021年)135頁参照。

   ***本記事のタイトルで使用している写真はAya Hirakawaさんの作品です。