税・会計よもやま話 tax-accounting

税・会計よもやま話
2021.08.21

夏休みの自由研究 「節税」のウソとホントを見極める~中古車を例に引いて

夏休みの自由研究 「節税」のウソとホントを見極める~中古車を例に引いて

はじめに

職業柄、セールストークで言われるとつい内容が気になってしまうキーワード第1位は「節税になる」です。不動産屋さんから車のディーラーから金融関係から、そこかしこで耳にします。だいぶ昔の話ですが、某放送の契約受託業者から「会社を持っているなら受信料は経費になるので節税できる」という主旨のことを言われたことすらあります(注1)。

そして職業柄、それらの多くがウソであることを知っています。本当の意味で「節税」になる出費や買い物はそう多くありません。今回は、今後皆様にセールストークに冷静に耳を傾けていただけるよう、「節税」なるものの大雑把な仕組みをご説明してみたいと思います。

まず、真に節税になる場合を知る

節税とは適法に税金を減らすことです。「稼ぎ」や「財産」といった課税物件が生じた際、何らかの工夫をしてそこにかかる税金を”未来永劫”減らすことができる場合を整理すると、大きくは以下の2通りになると考えられます。

(1)所得控除や税額控除等の制度の適用によって税金を減らせる場合
これは国が進んで税務メリットとして用意している制度を利用することをいい、単純かつ完全無欠に合法な節税です。なにせ国が使えと言っている制度なのですから後ろ指を指される可能性はゼロです。例えば以下のような制度の利用がこれに当たります。

所得税:NISA、IDECOや小規模共済の利用、生命保険料控除や医療費控除の利用など
法人税:投資促進税制の税額控除制度や賃上げ税制の利用など
相続税・贈与税:小規模宅地等の特例の利用、住宅取得資金贈与の非課税制度の利用など

例えば、裕福な親御さんが持っている遊休地に賃貸アパートを建てると、その土地に小規模宅地等の特例を適用することができ、相続税評価額が半減する分、相続税を大きく節税することができます。このような具合に既に用意されている制度の適用を目指してお金を使って税金を減らすのがこのパターンです。法人税や所得税の繰越欠損金・繰越損失の期限内利用を図ることもこのパターンに準じるでしょう。

(2)税率差によって税金を減らせる場合
これは制度間の税率差を利用して余計な税金を払わなくて済むように仕組むことをいい、合法ではありますが、このような節税が行われる現状を国が好ましいと捉えていない場合があり、後になって税制改正で道が閉じられる可能性を否定できません(例えば、既報の相続税と贈与税の一体化方針には両者の税率差を利用した節税封じという側面があると思われます)。そして誤りなく実行するにはいささかの知識が必要です。例えば以下のような税率の差に着目して行う場合がこれに当たります。

所得税における所得の種類別の税率の差
譲渡所得における所有期間の短期と長期の別による税率の差
所得税の税率と法人税の税率の差
法人の資本金の額の大小による税率の差
贈与税(年毎に計算)と相続税(相続開始時に一括で計算)の税率の差
日本国と諸外国の法人税等の税率の差

例えば、個人の所得税は所得が多いほど税率が増加する累進税率で最高45%(注2)にも上りますが、法人税率は所得金額の多寡に関わらず基本的には一定で23.2%です。また、事業所得と給与所得にかかる所得税率は基本的に変わらないものの、退職所得にかかる所得税の実効税率はそれらの半分以下になる場合があります。これらのことを考え合わせると、個人で事業を続けるよりは、会社を作って、多すぎない給与をもらいつつ会社にお金を貯めて引退する時に退職金をがっぽりもらう方が人生全体でかかる税金が安く済む、ということが起こり得ます(注3)。そういうことを念頭に事業を法人成りする、というような節税の仕方がこのパターンになります。

以上の2通りの節税の各個別スキームについての詳細な解説は別稿に譲るとして、多くの営業マンが口にする「この商品を買うと節税になる」という文句の真偽を考える際には、その商品を買うことで以上のいずれかのパターンに当てはまって税金を減らすことができるのかをお考えいただけばいいことになります。さらに言えば、ポイントは”未来永劫”税金が減ってその分あなたが得をするかどうかです。

そうすると多くの場合、以上の2通りの節税の類型のいずれにも当てはまらないということにお気づきになるはずです。試しに、巷間広く流布している「経費になる=節税になる」という言葉の真偽について考えてみます。

「経費になる」は単なる「課税時期の先送り」である

その典型例である「4年落ちの中古車を買うと全額経費で落ちるので節税できる(ので買いませんか)」という売り文句を一度はお聞きになったことがあるのではないでしょうか。結論からいうと、「4年落ちの中古車を買うと全額経費(損金)になる」のは本当ですが、「節税できる」というのはウソです。

大雑把な数値例で考えてみます。法人税率30%の国で、放っておいてもX1年度とX2年度にそれぞれ1千万円の利益が出る会社があります。この会社がX1年度とX2年度の2年間で払う法人税は6百万円になりますね。そしてこの会社がX1年度の期首に4年落ちの中古車を1千万円で買ったとしましょう。

4年落ちの中古車の減価償却費は取得価額と一致する(買った金額を1年で減価償却費に計上できる)ので、期首に買った場合は買った金額がそのまま1年で経費(損金)になる。従って、X1年度の会社の利益はゼロに変わり、もし中古車を買わなかったとしたらかかっていたであろう法人税3百万円を減らすことができました。

しかしX2年度になり、この中古車を同じ1千万円で売ったとすると、X2年度の利益は2千万円、法人税は6百万円になります。2年間で支払う法人税は6百万円のままで、結局、中古車を買おうが買うまいが変わらなかったことになります。

これでは節税になりません。中古車を買うことで実現したのは節税ではなく、X1年度の法人税の支払いをX2年度まで繰り延べたという「課税時期の先送り」だったのです。もちろん、仮にX2年度に買った金額を割り込む値段でしか中古車が売れないと損をするのでその分法人税が減ります。でもその法人税の減少は節税策の奏功によるものではなく、単に中古車への投資が失敗したことによるものに過ぎません。

以上のように、「経費(損金)になる=節税になる」というのは誤りなのですが、世の中には単なる「課税時期の先送り」をして「節税」と嘯く人のなんと多いことか。

「課税時期の先送り」に経済的な意味があるケース

とはいえ、「課税時期の先送り」が積極的な意味を持つ場合は確かにありますので、私自身、その検討をお客様にお薦めすることもあります。意味がある場合とは大きく、

年によって損益のブレが大きい場合
課税時期を繰り延べることによって税率差を利用できる場合

の2つです。前者の場合、課税時期を利益が出た年から損が出る年まで先送りすることができればその分税金を減らすことができますし(上の例でX2年度に1千万円の損失の計上が見込まれるような場合です。)、後者の場合、課税時期を税率が高い年から低い年に先送りできれば支払う税金を減らすことができます。

したがって、以上のような状況があることを前提に「課税時期を先送り」するために中古車を買うなら、それは確かに節税と呼べるでしょう。

おわりに

今回は、「節税」という言葉の本当の意味について考えてみました。実は、世の中にある「節税商品」のほとんどの実態は、本稿でいう「課税時期の先送り」商品に過ぎないということを是非ご記憶いただきたいと思います。「課税時期の先送り」商品には使いどころがあり、それを外してしまうと単に余計な商品を買い、余計な手数料を払うだけで終わってしまいます。誰かから「節税商品」の提案を受けた際には是非私ども税理士法人峯岸秀幸会計事務所までご相談ください。

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)

(注1)もちろん自宅の受信料を会社に負担させたら、ダメ。ゼッタイ。
(注2)国税の税率のみで地方税を考慮していません。本稿で所得税と法人税の税率について触れる場合には全て同様です。
(注3)法人成りスキームの有利な点として、法人から給与を取る場合は給与所得控除を取れることも上げられます。但し、今後の法人なりのメリットの予測計算に当たっては給与所得控除が近年縮減傾向であることに注意が必要であろうと思います。いずれにせよ私は、法人成りするならむしろ税務メリット以外の必要(信用力の増大など)を経営者が感じていることの方が重要であると考えています。

 ***本記事のタイトルで使用している写真はAya Hirakawaさんの作品です。