税務調査 tax-audit

税務調査
2021.04.07

税務調査の強制力~ある調査拒否事案の結末と消費税法上の帳簿保存要件

税務調査の強制力~ある調査拒否事案の結末と消費税法上の帳簿保存要件

はじめに

昨年突如としてはじまった新型コロナウイルス感染症の感染拡大は税実務のあらゆる場面に影響を及ぼしていますが、税務調査についても例外ではありません。既にコロナ禍の下での税務調査を何件か経験しましたが、納税者もその代理人である税理士も、そして恐らく課税庁も、それぞれに戸惑いを抱えながら対応に当たっていただろうというのが実感です。

もっとも、実務誌の報道によれば、国は緊急事態宣言下では税務調査を抑制する方針だったようです(注1)。足下の感染再拡大や今年の夏にオリンピックが予定されている状況に鑑れば首都圏での税務調査の実施状況が復旧するのにはもう少し時間がかかるかもしれませんが、やがてコロナ禍に一定の区切りがつけば、これだけの財政出動を続けた国による税務調査は以前よりも厳しさを増すかもしれません。

今回は、そもそも税務調査とは何たるかということをその強制力の観点からお伝えするとともに、税務調査の強制力を考えるうえで消費税法上の帳簿保存要件との関係で是非知っておいていただきたい最近の事例がありますので、ご紹介したいと思います。

税務調査の種類

強制力の有無という観点からは、税務調査は任意調査と強制調査に分類できます。任意調査とは、課税庁が納税者の協力を得ずして強制的に行うことができない調査のことをいい、税務署の職員により行われる一般的な税務調査はこの任意調査に当たります。これに対して、強制調査とは、租税犯則調査のことを指し、脱税犯などの告発を目的に、国税犯則取締法に基づき裁判所の令状に基づいて、臨検、捜索、差押えをするものをいい、これらは国税局の査察部(いわゆるマルサ)等が行うものです(注2)。

前者の任意調査は、法律により税務署の職員等が与えられている質問検査権と呼ばれる権限に基づいて行われます。すなわち、税務署の職員等は、所得税や法人税、消費税といった税金の調査について必要があるときは、その納税義務者等に対して質問や物件の検査を行うこと、物件の提示・提出を求めることができるとされており(注3)、皆さんが税務調査で受けることになる税務署の職員による質問等は、この権限の具体的な行使なのです。

任意調査なのに強制力がある?

さて、税務署により行われる一般的な税務調査は納税者の協力に基づき行われる任意調査である、と述べましたが、実際には、基本的に税務調査には半ば強制力があって正当な理由なくこれを拒むことはできないと考えておくべきです。その理由は、一般に、以下のような行為により質問検査権の行使に応じなかった者に対して、『1年以下の懲役又は50万円以下の罰金』という刑罰が科されることになっているからだと説明されます(注4)。

・質問に答弁しなかったり、偽りの答弁をする。

・検査等の実施を拒んだり、忌避する。

・物件の提示・提出の要求に正当な理由なく応じなかったり、偽りが記録された帳簿等を提示・提出したりする。

税務調査の場面で税務署の職員から「帳簿を見せてください」といわれたとして、気に食わないから「見せません」というわけには、なかなかいかないのです。

ちなみに、国税庁は「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」において以下のような問答を公表しています(2021年4月8日最終確認)。刀は持っているけれど抜くことは考えていませんよ、ということでしょうか。

問3 正当な理由がないのに帳簿書類等の提示・提出の求めに応じなければ罰則が科されるということですが、そうなると事実上は強制的に提示・提出が求められることにならないでしょうか。

帳簿書類等の提示・提出をお願いしたことに対し、正当な理由がないのに提示・提出を拒んだり、虚偽の記載をした帳簿書類等を提示・提出した場合には、罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科されることがありますが、税務当局としては、罰則があることをもって強権的に権限を行使することは考えておらず、帳簿書類等の提示・提出をお願いする際には、提示・提出が必要とされる趣旨を説明し、納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て行うこととしています。

ある税務調査拒否事案

以上のように間接的な強制力が担保されている税務調査ですが、今回は、別の側面からその実質的強制力が担保されているといえそうな状況を改めて浮き彫りにした最近の事案(注5)をご紹介します。

(事案の概要)

平成26年2月、国税局担当者が、税務調査のために事前通知することなくA社の事務センターに臨場した。これに対して税務代理人であるB税理士が、事前通知せずに調査を実施する理由を尋ね、回答が得られないと見るや、事前通知しない理由が説明できない調査は違法であるなどと述べ、調査に応じなかった。その後、A社代理人である弁護士が、事前通知がなかった本件調査が適法である根拠を文書により回答するよう求める文書を東京局宛送付した。

以後、局担当者は数次にわたり調査のためA社に臨場する旨の連絡票を送付するなどした。そこには、このままでは青色申告の承認の取消しや消費税の仕入税額控除の否認の可能性が記載されていたこともあった。しかし、B税理士や代理人弁護士らはその都度、前記文書に回答がないことやB税理士の業務の都合等の事情を述べて調査を拒否した。その間、A社は本店を他県に移転するなどした。

平成27年5月、局担当者は代理人弁護士に対して局独自の調査が終了したので調査結果の説明を受けるかどうかのA社への意思確認を依頼したが、その後相当期間にわたり回答がないことから、調査結果の説明を受ける意思がないと認定して調査を終了した。

平成27年6月、所轄税務署長は、A社に対して、税務調査の求めに応じず帳簿を提示しなかったことが消費税の仕入税額控除のための帳簿保存要件に違反するとして、調査対象の3事業年度分の仕入税額控除を否認する内容の更正処分を行った。

以上のとおり、納税者側の対応にも相応の問題があったように思われる事案ですが、課税庁は調査の先延ばしにする納税者側に対して先に述べた罰則を適用するのではなく、消費税法上の帳簿保存要件違反を理由に仕入税額控除を否認するという手段に打って出たのでした。その額たるやなんと、消費税の本税に加算税を加えて約38億円。

なぜ消費税法上の帳簿保存要件が問題となったのか

調査拒否がなぜ消費税の仕入税額控除の否認に繋がるのか。その理由は消費税法30条7項の文言解釈にあります。同条項は、課税仕入れ等に係る帳簿及び請求書等の『保存』を仕入税額控除の要件としています。実は、ここでの『保存』とは、『ただ保存してあること』をいうのではなく、『税務調査があった時に適時に提示できるように態勢を整えて保存しておくこと』と解されているのです(注6)。税務調査において帳簿や請求書等の書類の提示を拒否すると、それらが保存されていないと判断され、消費税の仕入税額控除を丸々否認されてしまう危険があることは是非ご記憶いただきたいところです。

事案の結末

本事案は、令和3年2月12日の最高裁決定(注5参照)をもって納税者敗訴が確定しました。あまりに巨額な調査拒否の代償となりましたが、裁判での認定事実を読んでいると、課税庁もそれなりに調査を受けさせる努力を払った結果でありその意味でやむを得ない結末であろうかと思わなくもありません。しかし、結びに代えていくつかの問題提起もしておきたいと思います。

おわりに~問題点と実務対応

本事案の経過と結末に対しては差し当たって2つの問題を指摘しておきたいと思います。まず、仕入税額控除を否認される危険が納税者本人に伝達されるよう更に努力が払われる余地はなかったかということです。裁判で明らかになっている事実関係の限り、課税庁は繰り返し消費税の仕入税額控除を否認する可能性を伝達していましたが、その方法は代理人である弁護士や税理士への連絡票の送付と電話であり、納税者本人が代理人からこのような危険の説明や経過報告を十分に受けていなかった可能性も考えられます。更正された金額が納税者の事業継続に致命的な影響を及ぼすほどに巨額であることや、一貫して代理人相手の折衝が続けられていたという状況に鑑みれば、仮に納税者本人への連絡が強力に試みられれば結末は変わったのではないかと思いたくなります。

また、そもそも、消費税法が定める帳簿保存要件があたかも税務調査拒否に対する懲罰規定であるかのように機能することへの疑問も生じます。この帳簿保存要件は仕入税額控除の実体法上の要件であり、そこでの『保存』の意味を調査協力の視点まで取り込んで解釈することはいささかやりすぎ(拡大解釈)なのではないか、ということです(注7)。今回の納税者が被ったあまりにも巨額な経済的損失と前に確認した調査拒否への刑罰のバランスをどう考えればいいのか、というところも気になります。どんな会社であれ、3年分も仕入税額控除が全額否認されれば、たちまち資金繰りに窮し、悪ければ経営破綻してしまうでしょう。今回のような仕入税額控除の否認のあり方は、実質的に、国税通則法が定める本来の刑罰を超えて任意であるはずの税務調査の強制力を強烈に担保する結果になっているとはいえないでしょうか。

もっとも、以上のような問題が指摘できるとしても、現行法の下では、納税者は税務調査の遅延を図る行為のカウンターブローとして消費税の仕入税額控除の否認が有り得ることを前提に対応しなければならないことはいうまでもありません。

そしてなにより、適法な税務調査それ自体には堂々と協力すべきであるということは最後に強調しておきたいと思います。その場で受ける指摘に対しては双方納得できるまで主張を戦わせるべきであって、事実の隠蔽や期日の非合理的な先延ばしによってうやむやに終わらせようなどと考えても巨大なしっぺ返しを食うだけだと、まず肝に銘じなければならないと思います。

税理士法人峯岸パートナーズ新宿オフィスでは、普段顧問契約をいただいているお客様はもちろん、そうでない方の税務調査への立会や課税庁との折衝を積極的にお受けしております。是非ご相談ください。

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)

[脚注]

(注1)税務通信3638号(2021年1月28日)参照。

(注2)酒井克彦『裁判例からみる税務調査』(大蔵財務協会、2020年)9頁~10頁参照。

(注3)国税通則法74条の2、74条の3等。

(注4)国税通則法128条。このような刑罰があることから、税務調査には直接的な強制力はなくとも、質問検査の相手方にはそれが適法な者である限り質問に答え検査を受任する義務がある、といわれます(金子宏『租税法[第22版]』(弘文堂、2017年)906頁参照)。

(注5)第1審:東京地判令和元年11月21日LEX/DB25581096、控訴審:東京高判令和2年8月26日TAINS Z888-2311、上告審:最決令和3年2月12日TAINS Z888-2351(上告棄却)。

(注6)最判平成16年12月16日民集58巻号2458頁参照。

(注7)この点については、最判平成16年12月20日税務訴訟資料254号順号9870における滝井繁男裁判官の反対意見が有名です。

 ***本記事のタイトルで使用している写真はAya Hirakawaさんの作品です。