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2021.10.20

電子帳簿保存法に違反したときの具体的なリスクって?

電子帳簿保存法に違反したときの具体的なリスクって?

はじめに

すっかり巷間を賑わせている来年1月に迫る改正電子帳簿保存法の施行。その改正点に焦点化した解説は巷に溢れていますが、では仮に、改正電子帳簿保存法に違反したとしたら、あるいは、改正電子帳簿保存法を無視したとしたら自社にはどんな危険が降りかかるのでしょうか?改正法施行前にシステムを入れ替えなければ!と対応を焦る前に、リスクをきっちり評価しておきましょう。

電子帳簿保存法ってそもそも何?

そもそも、電子帳簿保存法、略して電帳法とは何を定めた法律なのでしょうか。その答えは電帳法の正式名称にあります。「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」。すなわち、この法律は「国税関係帳簿書類」の「保存方法等」の「特例」を定めたものです。

「特例」なのですから、当然、特例以前の「原則」があります。それがどこにあるのかも電帳法の冒頭、第1条に書いてあります。曰く、

「この法律は、(…中略…)所得税法、法人税法その他の国税に関する法律の特例を定めるもの」

つまり、電帳法は、所得税法や法人税法といった事業者が納める税金について定める法律が事業者に対して課している帳簿や書類の保存に関する規制の、原則に対する特例を定めているのです。より具体的にいえば、帳簿や書類の保存の原則は紙保存であるところ、その特例としてそれらの電子データでの保存を認めるためにできた法律、それが電帳法です。

電帳法に違反してしまったときの具体的なリスクは?

以上からすると、電帳法に違反することとは要するに何なのか。それは恐らくご想像の通りで、所得税法等の法律が定めている帳簿や書類の保存に関する規定に違反することなのだということになります。

そこで、そもそも各税法、とりわけ特に事業者に縁が深い所得税法、法人税法、そして消費税法が定める帳簿や書類の保存に関する規制について確認しておきましょう。

所得税法と法人税法が定める帳簿等の保存義務と違反の効果

まずは所得税法と法人税法について見てみましょう。所得税法と法人税法はともに、事業者には帳簿と棚卸表等の決算関係書類、そして請求書等の取引証憑の類の作成保存を義務付けています。

なかでも青色申告者には、複式簿記(但し所得税法は簡易帳簿も可とする)による仕訳帳、総勘定元帳その他必要な帳簿の作成を求めています。その代わり、青色申告者には更正処分に先立つ帳簿書類の調査、更正通知書への理由付記、推計課税の排除、純損失や欠損金の繰越控除に代表されるような各種制度の青色申告者に限った適用といった特典を与えています。青色申告の特典を受けることと引き換えに、帳簿や書類をきちんと作成保存することが義務付けられているというわけです。

ですから、もし、青色申告者が帳簿等の作成保存義務に違反した場合、青色申告の承認が取り消されてそれらの特典を享受できなくなるという形で不利益を被ることになります。特に事後に青色欠損金の繰越控除が認められなくなるなどということになれば正しくオオゴトだということは容易にご想像いただけるでしょう。

一方で、白色申告者が帳簿等の作成保存義務に違反したとしても(推計課税による更正・決定を受ける危険が生じるとはいえ)直接的な罰則はありません。

消費税法が定める帳簿等の保存要件と違反の効果

次に、消費税法についてです。同法は課税事業者に対して資産の譲渡等の相手方の氏名・名称、それを行った年月日、それに係る資産又は役務の内容、その対価の額の各事項を記録した帳簿の備え付けを義務付けています。

しかし実質的に重要なのは、同法が帳簿及び請求書等の書類の保存を仕入税額控除の要件にしていることでしょう。すなわち、簡易課税の場合を除き、先述の各事項が記載された帳簿と、書類の作成者の氏名・名称、課税資産の譲渡等を行った年月日、それに係る資産又は役務の内容、その対価の額、書類の交付を受ける事業者の氏名・名称の各事項が記載された請求書等の書類の保存が、仕入税額控除の要件とされています。

ゆえに、もしこの帳簿・書類の保存要件を満たしていないと判断された場合、仕入税額控除が否認されることになります。すなわち、売上に係る消費税を納めなければならないことに変わりはないのに、そこから差し引かれるべき仕入に係る消費税はなくなり、結果として納税額が激増するということになります。そのことの恐ろしさについては以前のブログ記事で触れていますのでよろしければご覧ください。

小括~ズバリ、電帳法に違反することのリスクとは

以上要するに、電帳法に違反するリスクとは、上に述べた各税法が定める義務・要件を満たさない場合のリスクなのであって、一般的な事業者を念頭に置けばそれは次の2点に集約されるといえます。1点目は青色申告の承認を取り消されるリスクで、2点目は仕入税額控除を否認されるリスクです。特に後者については直ちに事業の継続性に重大な問題を引き起こしかねない軽視できないリスクであるといえるでしょう。

一方で、現行制度を前提にする限り、白色申告者や、消費税の免税事業者にとっては実は大きなリスクがないことも分かります。

帳簿や書類を電子化しないことにリスクはあるのか?

ところで、帳簿や書類の電子化はしない!と電帳法改正に無視を決め込むことには何らかのリスクがあるでしょうか。その答えは、税務上のリスクに限ればほぼゼロ、です。上に述べたとおり、帳簿や書類の原則的な保存方法は紙での保存であるという各税法の立場に変化があるわけではないからです。

もっとも、今回の電帳法改正や、特に以前のブログ記事で述べた電子インボイスの登場が契機になり、近い将来に商取引の在り様までが劇的にデジタル化に向かう可能性を感じてなりません。その意味では、帳簿や、特に請求書等の書類のデジタル化は、税務以前にご自身のビジネスのデジタル化の文脈でお考えいただくのがよさそうです。

ただ例外として、以前のブログ記事で触れた通り、今後は電子取引については証憑類の紙保存が認められなくなります。この点についてのみ対応は必須となりますのでご注意ください。

おわりに

電帳法改正をいい機会に、請求書などの書類は一切合切電子保存する方向に舵を切ることを考えている企業が増えていることを肌で感じます。そのことは膨大な書類の保管コストやその書類のチェックや転記のためにかかっていた人件費を確実に削減することでしょう。一方で、請求書等の保存が電帳法が定める要件に則って行われていなかった場合で、かつ、請求書等の原本を破棄してしまっていたような場合には、青色申告の取消しや仕入税額控除の否認を招く危険があることも先に述べた通りです。結局、電帳法改正に伴って帳簿や書類の電子保存を採用するかどうかは、そのことで削減されるコストと負うことになるリスク(あるいはリスクをヘッジするために別途要することになるコスト)の比較衡量により決すべき、ということになりましょう。

税理士法人峯岸パートナーズ新宿オフィスでは、電子帳簿保存法の改正に伴う内部統制の変更などに関する税務アドバイスのご依頼を承っております。是非ご相談ください。

(公認会計士・税理士 峯岸 秀幸)

  ***本記事のタイトルで使用している写真はAya Hirakawaさんの作品です。